スマートフォン「新・御三家」揃い踏み
このサイトに飛んでこられる方は、僕がHYBRID W-ZERO3ユーザとして公表したレビュー等をチェックしにこられるケースが今でも多いのではないかと思います。
僕自身は、去年メインの電話回線をドコモに替え、サムスンSC-01Bに乗り換えました。
Android機のシャープSH-03Cにも手を出してみたものの、あまりのパケット消費とバッテリーの保たなさを嫌気して結局SC-01Bに戻っています。
電話とメール、そして内蔵のPDA機能しか使わないスタイルなら、これ以上の名機はそうないでしょう。

SC-01BはWindows Phone 6.5ですが、後継のWindows Phone 7はいつまでたっても日本向け製品が出ない上、そのためにWindows Phone 6.5以前の旧Windows Mobileはレガシー認定された形となって半ば強引に進化を止められてしまい、これはもう共倒れを免れないものと思っていました。

ところがここへ来てのWindows Phone 7.5機の登場。しかもかなりプッシュされている様子。
初の製品となるau IS12Tの反響次第では、10年前に「御三家」と呼ばれた「Palm・WindowsCE・Zaurus」のように、「iPhone・Android・Windows Phone」が「新・御三家」と呼ばれるようになるかも知れません。


やっと本気になったのか、Microsoft




ようやく登場したWP7.5は、UIの優位性をアピールしています。
メトロデザインと名付けられたそのUIは、アプリのアイコンを並べる「アプリ志向」でもデータからアプリを起動する「データ志向」でもなく、アプリもデータも利用目的に沿って呼び出される「目的志向」をめざす、考えられたUIだという印象を受けます。

レビュー記事等で見る「Peopleハブ」の画面は雑誌の記事のようにオシャレにデザインされ、その中にアドレス帳の写真やTwitterのつぶやき等がシームレスに統合されています。アプリは背後で動くプラグインのような扱いでしょうか。



そこには、アプリもデータも区別せずに画面を構成する部品の一つとして扱い、それらをマッシュアップした「ハブ」全体でコンテンツの一単位とする設計思想を感じます。
「ハブ」を記事と見立てれば、その集合体であるWP7.5端末は雑誌、というイメージでしょうか。
あるいは、携帯するCMSの中でアプリというウィジェットが動作しているイメージ。iPhoneやAndroidがウィジェットのアイコンを並べた単なる実行環境なら、WP7.5はウィジェットをブログパーツとして貼りつけたblog画面に対比することができそうです。

ハッキリ言ってMicrosoftらしくない、ユーザー寄りの設計思想。でもその実、Microsoftは昔からペンデバイスのUIについて結構意欲的です。
PalmのパクリといわれたPocketPCでもホーム画面の「Today」でオリジナリティを見せ、 それがPalmのアプリとして逆輸入されるというちょっとした快挙を遂げています。
その「Today」も、予定表や仕事などの基本機能をプラグインとして一画面に配置し、直近の内容をホーム画面でグランスできるように、という設計思想。WP7.5のUIは、長年ペンPCの普及にチャレンジしながらコケ続けてきたMicrosoftの執念の結晶と言えるでしょう。

WP7.5普及への課題はなんといっても、端末内マッシュアップのソースとなるクラウドデータへの支配力。
いまやスマートフォンのプラットフォームはクラウドへ客を誘引するための窓口と化し、プラットフォームビジネス自体がOS1ライセンスいくらの商売から富山の薬売り的インストールベースモデルへと変化しています。競争の土俵は、UIがいい悪いのレベルをとっくに超えている。
Microsoftもそんなことは百も承知でしょうが、AppleやGoogleと違い自社Webサービスがイマイチ振るわない彼らには不利な土俵です。とりあえず、メジャーな他社サービスであるFacebookやTwitterなどをハブ内に「シームレスに統合」してみせることでお茶を濁した格好ですが、今後どう転ぶか。
WP7.5をテコにWindows Liveのユーザーを増やすのか、Windows LiveをテコにWP7.5端末を普及させるのか、「鶏か卵か」的議論になりそうなところではあります。

また、海外ではXbox 360連携を普及のテコにと言っているようですが、それだとXbox 360が売れてない日本市場は普及のエアポケットと化すシナリオもありそうで、別の意味で気になります。
先進性ゆえのガラパゴス化ではなく、市場の特殊性ゆえにスルーされてのガラパゴス化。そういうことが今後の日本にはフツーに起こってくるのではないかと。ガラパゴス2.0ってとこですか。


iPhoneは「新・御三家」筆頭であり続けられるか?




「新・御三家」の筆頭は、今のところiPhoneで揺るぎないでしょう。
WP7.5は後発OSとしてUIの優位性をアピールしていますが、iPhoneの優位性はすでにUIではないし、iTunes含むプラットフォーム全体としての優位性も実は結果にすぎず、Appleの強みは別なところにあります。

アプリのアイコンを並べただけのiPhoneのUIは、10年前のPalmの域を一歩も出るものではないし、そもそも使いやすさを追求した工夫の産物というわけでもないでしょう。
指先タッチソフトキーにしろピンチズームにしろ、要素要素で見ればiPhone以前から存在していたり他社の技術を買収したりしたもので、必ずしも技術要素が新しかったわけでもない。
PalmにしろiPhoneにしろ、その「使いやすさ」のポイントはシンプルと評されるUIではなく、実現すべき使い勝手に向けて最適化されたソフト・ハード含むプラットフォーム設計にあります。

例えば、iPhone以前のPDA・スマートフォンが、細かなポインティングができるペン操作を当然の前提とした一方で、iPhoneは、操作性の細かさや表示情報量を犠牲にしても指先操作を前提としてハードもソフトも最適化してきました。
これは単に後発の強みというだけではなく、「ユーザーは本当は指先で操作したかったのだけど、iPhone以前は誰もそれに応えなかった」事を意味します。
その証拠に、iPhone以前のPDA等は殆どがボタン・方向キーといったハードキーをタッチパネルとは別に搭載しているし、ユーザーレベルでは指先操作に特化したソフトキー等のアプリが多く公開されています。
でも、「指先で操作したい」という本当のニーズにユーザー自身もなかなか気付けないのです。そのモヤモヤしたところへ、iPhoneというカタチを目の前に突きつけられて初めて納得する。

この、モヤモヤした根源的なニーズをカタチにする立案力がAppleの競争力の源泉であり、UIはそこからのアウトプットの一つであるに過ぎません。
載せられる機能は無数にあれど、それを取捨選択していくことでコンセプトという「カタチ」を彫琢していくことがAppleやかつてのPalmにとってのミッションであり競争領域です。そこは機能の足し算が全体の点数を下げてしまう世界であり、プロダクトアウト思考しかできないメーカーは張り合おうとすればするほど逆走させられるハメになる。

Appleの場合、この立案力を担保するのは、カリスマ経営者ジョブスのイマジネーションと、コンセプトを透徹させるワンマン体制、OSをライセンスせずハードからサービスまで面倒みる垂直統合の強みです。突き詰めて言えば、俺様ジョブスの独善性そのものです。
だからこそ、ジョブス勇退後のAppleがそんな独善性を会社として持ち続けられるのか、世界が刮目しているわけです。

古くからのMacユーザーなら、ジョブス復帰前の、身売り寸前まで落ちぶれたAppleを記憶していると思います。
当時のAppleが起死回生の一手として打ち出したものとして「CHRP(Common Hardware Reference Platform・チャープ)」という構想がありました。
早い話、Windows + Intelに対抗して、MacOS + PowerPCの互換機を増やしPC/ATの向こうを張るプラットフォームを育てるために、MacOSのライセンス供与とハードウェア仕様標準化を進める企てでした。
ジョブス復帰で白紙撤回されたものの、当時いちMacユーザーとしてそれなりにワクワクした記憶があります。独自OSを擁するPCメーカーが、OSライセンスで互換機ファミリーを作るという戦略は極めて真っ当で理にかなっているとも思います。

しかし今のAppleを知る目で見れば、その理にかなった真っ当さこそがAppleらしくない。
そういう優等生的戦略は他のベンダーに任せて、Appleは俺様メーカーとして我が道を行くしかない。そういう会社に作り変えられてしまった。

でも、「現状を維持」と所信表明する後継CEO ティム・クック氏の穏やかで良識派っぽい番頭顔を見ていると、またあの頃のような「真っ当な」Appleに戻ってしまわないかと心配になります。




Googleの天然ナイーブさが、Android陣営の不安要素となるか




Googleのモトローラ買収が、Android端末メーカーに不満を抱かせ、離反を招くのではないかという観測があります。

OSベンダーが特定の端末ベンダーを優遇するようなことがあれば、それは主に韓国や日本のベンダーにとって商習慣に反する、仁義にもとる行為であり、そうした機微に無頓着なGoogleのナイーブさがAndroid陣営に危機を招く、というものです。
表向きは、モトローラの特許を手に入れることでAppleの特許訴訟に対し陣営ベンダーを護る動きとして、ベンダー側からも概ね好意的に迎えられているという話ではありますが。

しかし、モトローラを買収したからといって、Googleがハードウェアの製造・販売に関与を深めるというのはちょっと想像できないですね…

Google商法の基本形は単純明快です。
それは「情報の源流であるデータセンターと、河口であるユーザー接点(Webサービスやアプリ)を自社で押さえて、中流でGoogleユーザー相手に商売したい人たちからアガリを抜いていく」ということ。Googleのサービスを利用するユーザーからは対価を取らず、彼らをエサに中間業者(主に広告主)を呼び込むBtoB事業者がGoogleの本当の姿です。
言い換えれば、いけす(サービス)を作って魚(ユーザー)を集め、釣り人(中間業者)から入場料を取るのが彼らの流儀であり、Google→ユーザー→中間業者という三角関係が基本となります。

したがって彼らの企業努力は、いけすと魚を増やすための
・データセンター(源流)の拡充
・ユーザー接点となるサービス・アプリ(河口)の拡充
に向けられており、AndroidOSの無償バラマキもその路線を一歩も出るものではありません。

これがハードウェアの製造・販売となると、Google→ユーザー→中間業者という三角関係ではなく、Google→ユーザーという一対一の関係になってしまいます。
彼らは(マッチング広告以外の)自分たちの製品の直接利用者にお金を払ってもらうことをしていないからこそ世界でデカい顔ができるわけで、お金を払うユーザーに直接製品を提供することをしたがらないのではないでしょうか。

子会社化したモトローラをワンオブゼムのパートナーとして他ベンダーと対等に遇しつつ、リファレンスモデルは優先的に作らせる、というあたりが落とし所ではないかと思われます。


こうして、「新・御三家」3陣営を見ていくと、Appleは唯我独尊・教祖タイプの俺様企業、Googleはユーザーに直接お金を払わせていないが故に俺様状態、Microsoftだけが真っ当な営利企業に見えてしまうから不思議です。
真っ当かどうかはともかく、3社の中でMicrosoftだけが20世紀マスプロ工業のパラダイムで動くものづくり企業なので、日本人の心情としては肩入れしたくなるところです。
もっともそんなMicrosoftも昔はWindowsのシェアをいいことに、取引先に恫喝的な圧力をかけたり、ライバル技術を全力で潰しにいったり、抱き合わせ的バンドル商法を収益源にしたりと、ヤンチャな話も多々耳にしたんですけどね…

Posted : 2011/09/10 08:47:03

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