ウィルコム「弱者の戦略」が世の中を変えそう
iPhone 5がauから発売されるとか。


ソフトバンクを尖兵として高機能ガラケーに守られた難攻不落のガラパゴス日本にスマホブームを起こし、スマホで出遅れたauにiPhoneというアメを与えてNo.1ドコモへの包囲網を敷くという…したたかというかミエミエのApple交渉術。

これでauにはAndroid・Windows Phone・iPhoneの御三家が揃って、他キャリアに見劣りしないラインナップになりますね。インフラで圧倒的優位を持つドコモの横綱相撲や、ワンマン企業SBMの打ち出すアクロバティック施策には、全方位外交の八方美人路線で対抗と。
もっとも、今のWindows Phone 7.5プッシュはMicrosoftによるペイドパブリシティを多分に含んでいると思われ、実際の盛り上がりは不明。折からのiPhoneショックの前にWindows Phoneプッシュは腰折れして御三家体制確立ならず、となる予感も…


で、そんなauの向こうをはってこの度ウィルコムが発表したのは音声端末を中心とした10機種。

なかでも話題なのは、固定電話機型のボディにPHSを詰め込んだ無線据え置き電話「イエデンワ WX02A」です。


いや、音質に圧倒的アドバンテージを持つPHSの応用として狙いはいいと思うんですが、その昔アステルを買収した鷹山がこういうのやってたような…

(「VSフォン」か。っていうか、まだあったんですねあの会社…


オフィス向けや「2台目無料」での導入を視野に入れているのでしょうが、今のウィルコムには「ウィルコム定額プラン」や「だれとでも定額」がある分、鷹山のVSフォンと較べても説得力がありますね。


今やすっかりデータ通信路線・リッチインターネット路線を切り捨てて通話特化キャリアとなりつつあるウィルコム。
ソフトバンク傘下に入る前は投資ファンド「カーライル」の傘下にあったわけですが、カーライルがウィルコムに目を付けたのも、加入者減で余った帯域を使って音声定額を実現したかったからだといいます。

音声定額リリース当時のウィルコムは、京ぽんや初代W-ZERO3・W-SIMなど強力なタマを抱えていたこともあり、エッジの利いた個性派キャリアとして輝いていました。
当時の社長が八剱洋一郎氏であったことからウィルコムファンの中には八剱社長時代を懐かしむ向きが多いようですが、京ぽんやW-SIMなどはもともと旧DDIポケット時代に開発・リリースされたものです。
また、八剱氏はカーライルのIBM人脈で呼び寄せられた人物であり、音声定額を前倒し導入するのにリーダーシップを発揮したことからも、カーライルの意を受けた音声路線派であったことがうかがえます。

音声定額を武器に市場でユニークな地位を確保したいカーライル→八剱ラインの音声路線と、PHSを携帯電話の簡易版でなくリッチな通信端末として受け入れさせたい旧DDIポケット生え抜き組のデータ路線、という対立構図が当時のウィルコムにあったのではないかと邪推してしまいます。
そしてその2つの路線を満足させる着地点として、通話もできるデータ端末としてのスマートフォン=W-ZERO3シリーズがプッシュされたのではないかと。

結局八剱氏退任後のウィルコムは、自ら打ち出した製品・サービスの先進性において次々と他キャリアのキャッチアップを許し、行き詰っていったわけですが…逆に言えばウィルコムの製品・サービスが数年後のモバイル業界トレンドを先取りしており、業界全体を牽引してきたともいえるわけです。


そんなウィルコムが、未だに独自の強みを維持していて他キャリアが追随できていない分野、言い換えればモバイル業界の数年後の未来図が、この「イエデンワ」に示されているように思うのです。
それは
●「だれとでも定額」がめざす通話料金の完全定額化(誰定でもまだ不完全ですが)
●固定電話のモバイルによる置き換え
ということ。

2006年の記事ですが、経済学者の池田信夫氏がFACTAのインタビューに応えてこんなことを言っています。

インタビュー:池田信夫氏(5)電話代はタダになる



ITの業界というのは、1年先がどうなるかはほとんど分かりませんが、10年先にどうなるかというのは分かるんです。固定電話も携帯電話も10年先には事実上タダになるでしょう。どういう経緯をたどって行くかは分かりませんが、タダになることは間違いありません。
具体的な経路や技術要素については分からない、しかし進化の必然として到達すべき状態が通話無料であることは分かる、と。
2006年といえば、折しもウィルコムの音声定額が業界に衝撃を与え、ソフトバンクによるボーダフォン買収が日本中に衝撃を与えた年です。それから5年、池田氏の言う10年後の世界への折り返し地点に到達しましたが、現実はまずまず予言通りの方向に推移しているといえそうです。

言えることは、ウィルコム・SBMら弱小キャリアの「弱者の戦略」が業界を変え、さらに、激しい競争にさらされることのなかった固定電話の世界をも呑み込もうとしているということです。

Posted : 2011/09/23 19:19:58

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